ボディービルダーに起きた「意識障害」—極端な糖質制限と筋トレの危険性
ボディービルダーに起きた「意識障害」—極端な糖質制限と筋トレの危険性
健康のために始めたはずの食生活と運動習慣が、思わぬ事態を招くことがあります。
京都府立医科大学の研究グループが、過度な糖質制限と筋力トレーニングによって重度の低血糖を引き起こし、意識障害に陥った男性の症例を報告していますので紹介したいと思います。
このケースは、健康な人でも安易な糖質制限を行うことの危険性を示していると言えます。
糖質制限ダイエットでなぜ「低血糖」が起こるのか?
今回の症例は、25歳のボディービルダーの男性です。
彼は4年前から毎日1〜1.5時間の筋力トレーニングと30分の有酸素運動に加え、厳格な糖質制限を行っていました。
ですが、来院の3日前からは、糖質を一切摂取しないという極端な食生活を送っていたといいます。
倒れているところを家族に発見され、病院に救急搬送された際、彼の血糖値はわずか17 mg/dLまで低下していました。
これは重度の低血糖にあたります。
幸い、点滴でブドウ糖を投与したところ、意識は徐々に回復し、その後は低血糖の状態になることなく、3日後には退院しました。
極端な糖質制限と激しい運動が引き起こした「糖質の枯渇」
健康な人の体内には、血糖値が下がりすぎないように調整する仕組みが備わっています。
通常、食事からの糖質が不足すると、肝臓がグリコーゲンを分解したり、アミノ酸などから糖質を新しく作り出す「糖新生」を行ったりすることで、血糖値を一定に保ちます。
しかし、この男性の場合、極端な糖質制限に加え、毎日激しい筋力トレーニングを継続していました。
筋力トレーニングのような強度の高い運動では、筋肉がエネルギー源として大量の糖質を消費します。
研究グループは、この症例の重症低血糖は、「過度な糖質制限を背景に激しいトレーニングによって糖質の急激な消費が起こり、糖新生などの防御機構の能力を上回ってしまった結果」だと推測しています。
つまり、体内の糖質が完全に枯渇してしまった状態です。
健康な人でも注意が必要な理由
重度の低血糖は、意識障害だけでなく、不整脈や心筋梗塞などを引き起こし、最悪の場合は死に至る危険性もあります。
今回の症例は、糖尿病ではない健康な人でも、誤った方法で糖質制限を行うと、命に関わる事態に陥る可能性があることを警告しています。
糖質は、脳や筋肉を動かす重要なエネルギー源です。
一般的に、脳が1日に必要とする最低限の糖質は130gとされています。
安易な糖質制限は、体調不良や集中力の低下につながるだけでなく、今回のケースのように深刻な健康リスクを招く可能性があることを理解しておくことが重要です。
健康的な身体づくりのためには、専門家のアドバイスを受けながら、バランスの取れた食事と適切な運動を組み合わせることが大切です。
極端な食事制限は避け、ご自身の体と向き合うことを改めて考えてみましょう。
まとめ
- 過度な糖質制限と激しい筋力トレーニングの組み合わせは、健康な人でも重度の低血糖を引き起こす可能性があります。
- 脳や筋肉の重要なエネルギー源である糖質が枯渇すると、意識障害などの深刻な症状が現れます。
- 健康的なダイエットや身体づくりには、栄養バランスの取れた食事と適切な運動を継続することが不可欠です。
- 自己流の極端な食事制限は避け、専門家の指導を仰ぐことが推奨されます。
参考文献
- 岡田 博史ほか. 糖質制限と筋力トレーニングによって重症低血糖をきたした1例. 日病総診誌. 2025; 21(2): 61.(参照元:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhgmwabun/21/2/21_61/_article/-char/ja/)










